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花束 <最終章> 生きていた証

 

 

 

 


                  花束
 
              <最終章>
                
              生きていた証


「あ・り・が・と・う・け・ん・ご」と言っていた君の口の動きが、何度も脳裏をフラッシュ・バックし、君が僕に呼びかけた事も、なぜけ・ん・ごと僕の名前を知っていたのかも理解ができず、混沌としたまま浅い眠りで朝を迎えた。
そして出社するなり、イルファのPVの制作会社へ連絡を入れ、担当のアート・ディレクターを呼び出した。
「イルファのPVに写っているヘアーメイクの子はどこの人ですか?」
僕はPVに写っているのが本物のヘアーメイク・アーティストなのかタレントなのか分からず問いただした。
するとその子は、カメラマン指名のプロのヘアーメイク・アーティストで、ヘアーメイク・アーティストやスタイリストが所属するリップ・ラインという赤坂の会社からの派遣である事が分かった。
そしてリップ・ラインの所在を確認した僕は、間違いなく君だと確信した。
それは、リップ・ラインの住所が赤坂とはいえ六本木ミッド・タウンに程近かったからだ。
しかしカメラマンとは連絡が取れず、その子の名前までは聞き出せなかった。
僕はその夜、逸る気持ちを押さえ仕事を終えると、赤坂へ向かった。
リップ・ラインは、ミッド・タウン脇から赤坂へ下る坂の途中にあり、エレベーターの無い四階建てのビルの二階だった。
僕は階段を一歩一歩踏みしめるように上がると、大きく息を吐きベルを鳴らした。
「はい!」中から若い女性の声が聞こえた。
ゆっくりと開いたドアの向こうには、君とは正反対に健康そうに日焼けをした、褐色の肌の子が怪訝そうに顔を覗かせた。
「どちら様ですか?」
「あ!どうも私はアルファ・レコードのものですが」
僕は名詞を差し出した。
「はい・・」
その子は名詞と僕を見比べたが、怪訝そうな顔が見る見る笑顔になった。
「あのう〜こちらにさつきさんという、ヘアーメイクの方がいらっしゃると思うのですが?」
僕は単刀直入に聞いた。
「さつき・・・梶さん!うちにさつきっていう子いました?」
その子は首をかしげながら部屋の中を振り返り大きな声を出した。
「さつき・・そんな子いないけど!」
部屋の中から、落ち着きの感じる女の声が返ってきた。
「だそうですけど・・」
僕は一瞬で落胆したが食い下がった。
「あのう色白の・・いや、イルファのPVでヘアーメイクを担当した人なんですが?」
「イルファ?・・梶さん!イルファさんやったの梶さんですよね!」
褐色の肌の子は、また振り返りながら叫んだ。
「そうだけど・・ねえ入っていただいて」
「はい・・どうぞ」
褐色の肌の子は、やっと僕を招き入れた。
部屋に入ると、すぐに白いソファーとガラスのテーブルがあり、奥には中央に花瓶が置かれた大きなテーブルとデスクが一つある、広いワンルームだったが、女性ばかりの会社らしい清潔感のある空間になっていた。
「どうぞ」
奥のテーブルには他にも若い女性が一人座っていたが、デスクから薄化粧で肌つやのいい30代の女性が立ち上がり僕に声を掛けた。
「すいません、突然」
僕は仕事の依頼で来たわけでもなく、何から切り出そうかと頭の中は混乱していた。
「どうぞ・・」
僕はもう一度ソファーを勧められたが、立ったままでいた。
「私、梶といいますが、イルファさんのPVで何か問題が?・・笠井さん・・」
彼女は僕に名詞を差し出し、褐色の肌の女の子から僕の名詞を受け取ると名前を確認していた。
彼女の名詞には、リップ・ライン代表取締役ヘアーメイク・アーティスト、梶沙織と書かれてあった。
「じゃ〜梶さん、お先です!」
「あ〜お疲れさま!明日よろしくね!」
「はい、失礼します」
褐色の肌の子と、奥のテーブルに座っていた子が僕にお辞儀をして帰っていった。
「まあ座りませんか?」
「はい」
僕は一呼吸置き話し始めた。
「実は問題というか・・僕はプロデューサーの佐伯さんからイルファのビデオを見るように言われ確認していたのですが、冒頭に写っていたヘアーメイクの方のことでお聞きしたいことがありまして・・」
「はい、私に何か?」
「は?いえ、あのう・・あれはさつきさんという方ではないんですか?」
「いいえ、あれは私ですけど・・それに先ほども言いましたけど、うちにはさつきという子は所属していませんが・・」
彼女は益々怪訝な顔になり「あのう〜イルファさんの撮影に行ったのは私ですし、問題があるなら佐伯さんに連絡しましょうか?」
彼女は僕に警戒心を持ったようで、携帯を握り締めた。
それでも僕は納得が行かず食い下がった。
「いえ、僕が見たビデオに映っていたのはあなたではないんです」
「え〜そんなことおっしゃられても!」
彼女は呆れたように、長い髪を手でかき上げながらソファーへ深々と座り直した。
その時だった、僕は彼女の髪をかき上げた手の先に眼が釘付けになった。
それは、彼女の後ろの棚に置かれたフォト・スタンドに君の写真が入っていたからだ。
「あっほら!あの人!あの人ですよ」
彼女は驚いたように振り返り、棚のフォト・スタンド見上げながら暫く動かなかった。
「その人ですよビデオに写っていたのは!」
僕が念を押すように彼女に伝えた。
すると彼女はゆっくり立ち上がり、フォト・スタンドを手に取り振り返った。
「沢木藍子・・この子は交通事故で二ヶ月前に亡くなっています・・だから・・」
「えっ何をいってるんですか・・・」
僕は、彼女のあまりにも唐突で馬鹿げた話に唖然とした。
彼女はフォト・スタンドをテーブルに置きながらソファーに座り直した。
「本当にこの子だったんですか?映っていたのは・・私ではなく藍子が・・」
彼女の眼は、今にも涙が溢れ出しそうに光りだした。
「実はイルファさんの撮影には私ではなく藍子が行くことになっていたんです・・事故はその前の日に・・六本木でトラックに巻き込まれて・・」
僕の頭の中は(そんな馬鹿な・そんな馬鹿な・・・)を繰り返すだけで、思考が停止してしまいそうだったが、彼女の言った事が事実ならば、僕が君に会ったのはいったい何なのか、ひょっとして君には双子がいるのかも知れないなどと、かぎりある可能性が過った。
そして「その事故というのはいつのことですか?」僕が声を掛けた夜を確認した。
「撮影の前日だから・・・5月の13日です」
「13日・・」
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
君に声を掛けたのは次の日の14日だったからだ。
「実はビデオだけの問題ではないんです・・僕はさつき、いや、その藍子さんに会っているんです。14日の夜ミッド・タウンの前で・・それから次の日は駒沢公園で・・藍子さんは自転車に乗ってました」
「自転車・・その自転車は赤い色ですか?」
梶沙織の眼が見開いたようだった。
「はい赤い自転車です」
「それ藍子が買ったばかりで、自慢げにここにも乗って来ました・・今度は駒沢公園まで行くんだって、嬉しそうに話してた」
彼女は携帯を開き、君が赤い自転車の前に立っている写真を見せた。
それは紛れもなく、君とブリジストンの赤い自転車だった。
「これはいったい・・・」
僕は携帯の写真を見ながら、君に会ったことは幻覚だったのかと、確信が揺らぎ始めた。
「そのPV見せてもらえませんか?」
「そうですね!それがいい、今取ってきます!」
僕は彼女の言葉に、我に返ったようにリップ・ラインを飛び出したが、考えれば考えるほど得体の知れない霧が体中を取り巻いていった。
そして息を切らし会社に戻ると、デスクの上に佐伯さんからのメッセージとイルファの新しいPVが置いてあった。
そのメッセージには・・すまん!イルファのPV、からテープを渡した・・だった。
僕は胸騒ぎを感じながらそのテープを回した。
するとイントロは同じだったが、驚いたことに鏡越しにイルファの後ろに写っていたのは、リップ・ラインの梶沙織だった。
僕は慌ててデスクの中にしまっておいた昨夜のPVを回した。
しかし、そのテープからは砂嵐のような画面と、ザワザワとしたノイズだけが延々と流れるだけだった。
それはまるで、この世の果てでもあるかのような空虚で切ないものだったが、この時初めて背筋が凍るような悪寒が体中に走った。
そしてやっと、君がこの世には存在していない事実を理解できたような気がした。

後日佐伯さんさんから、イルファの撮影当日の話を聞いた。
すると、あの日は機材の故障でもないのにノイズが走り、何も写らない状態が数分続いたということだった。僕が最初に見たテープはその時のものだった。
結局これで君が写っていた証拠はなく、僕が君に出会ったことさえ誰にも信じてもらえなくなった。
あの夜、ソーリやカメやコミに話していたとしても、ただの作り話で終わっただろう。
いや一人だけ・・梶沙織だけは僕が君に会ったことを信じてくれているかも知れない。

沢木藍子きっと君はイルファの撮影を心待ちにしていたのだろう。
そして、買ったばかりの赤い自転車で駒沢公園を走ることも楽しみしていたのだろう。
君は短かかった人生を、誰かに見届けてほしかったのだろう。
君が生きていた証を。
君がさ・つ・きと言ったのは、君に声を掛けるように、五月の風が僕に悪戯をしたからだ。
そんな僕に、君は最後の想いを託したのだろう。

草木の蒸れた匂いと、立ち上る湿気に打ち沈んだ梅雨空も流れ去り、強い日差しに目黒川の川面がギラギラと輝き始めた。
今ではすべてが夢心地のように想える。
僕は君に、いや沢木藍子さん。
今では僕も君に感謝をしています。
僕は君に出会った事で、生きることの尊さや、人生に立ち向かうことの重大さを、改めて見詰め直すことができたからです。
朝冷蔵庫を開ける癖も、母親を早くに亡くした事が原因だと分かっています。
母が生きていた頃には、冷蔵庫の中は幸せが詰まっていたからです。
だから生きて来た証も、これから記す証も、眼をそらさぬように受け入れて行くつもりです。
大切な人を失わないように・・・
今夜、大きな花束を二つ買うつもりです。
一つは六本木の交差点へ。
そして、もう一つは有香へ渡すつもりです。
プロポーズをする為に。
 

               FIN               上岡ヒデアキ






          




 

 

 

| Walkin' | 15:44 | comments(0) | - |
花束 <第五章> 幸せのレシピ

 

 


                     花束

                 <第五章 >

              幸せのレシピ


新人歌手の音入れでスタジオに篭りっきりの一週間だったが、さ・つ・きと言った君の名前を幾度となく思い起こし、忘れかけていた感情が目覚めたようで、充実感さえ感じるものだった。
しかし季節はお構いなしに流れ、待ちに待った土曜日は、梅雨の走りか、朝から肌寒い雨模様の一日になってしまった。
恨めしげに外をみついめる僕に「なに黄昏てるの?」と有香が茶化した。
「黄昏てなんかないよ・・ほら、今日こそこれで運動しようかなって思っていたから・・」
僕はチネリを顎で指した。
「そうだったんだ・・残念だね」
春の到来で、新たな葉を纏ったテラスの観葉植物が、雨に打たれ鮮やかな色に揺れていた。
今日の休みを、自転車で出掛ける事をどう切り出そうかと考えていた僕は、これで明日晴れた時、堂々と自転車で出掛けられると思った。
「買ってから乗ってないもんね・・私も自転車買おうかな〜」
僕は有香の言葉にドキリとした。
考えてみれば、今までの僕なら二人で出掛ける為にも、有香も買いなよと、言っていたはずだからだ。
そのことを有香も感じていたのかも知れない。
「そうだよね!それがいいよ、有香も運動不足だし・・」
「え〜私太った?」
有香は眉間に皺を寄せ嘆いた。
「いや、そんなことはないけど・・ほら、今からやってたほうが・・それに二人でどこか行けるしね」
有香は決して太っていたわけではなかった。
むしろ付き合い始めた頃よりも、スリムになっていたくらいだったのに・・・
「まあいいや・・・」
僕は有香の、まあいいや・・が、なんだか気にはなったが、とりあえずその場の窮地を脱した気がした。
その日の僕達は出掛ける事もなく、手持ちのDVDでの映画観賞になった。
<幸せのレシピ>キャサリン・ゼタ・ジョーンズとアーロン・エッカートのラブ・コメ物だが、有香のお気に入りの映画だった。
独身で仕事に明け暮れていたフレンチの腕利きシェフであるキャサリンが、事故死した姉の子を引き取ることから、キッチン以外での幸せを見つけていくというラブ・コメ物だが、有香はどこかで自分をオーバーラップし共感しているようだった。
しかし、それだと差し詰め僕がアーロン・エッカートになるわけだが、映画の中の彼はユーモアも実行力もあり、その上子供好きときている。それに間違いなく肉食系だ。
これが僕に対する有香のメッセージだとするなら、僕は太刀打ちできずに逃げ出したい心境だ。
それにしても、僕はキスシーンやベット・シーンになると妙に居心地が悪くなり、有香にしても必ず何かを食べたり飲んだりとせわしなくなる。
不思議なもので三年も一緒にいるのに、まるで付き合い始めの恋人同士のように気恥ずかしくなるから可笑しなものだ。
むしろ僕らは、アダルトビデオを楽しむぐらいではないといけないのかも知れないが、未だ挑戦はしていないしそれほどの意欲もない。
それでもその夜、もやもやを吹き払うかのように有香の体を求めた。

次の日眼が覚めると、ブラインドから青空を窺わせる明るい光がもれていた。
僕は逸る気持ちを抑え、あの時と同じ午後になるのを待った。
「どこまで行くつもり?」
有香の問いかけに「そうだね・・多摩川辺りまで行けるかな〜」僕は思わず駒沢公園ではなく多摩川辺りまでとあやふやな返事をしてしまい「途中でメールするから」と有香の言葉を遮った。
「じゃ〜車に気をつけてね!」
有香の言葉に送られ、僕はもう一度神の悪戯に賭けた。
君に会える確率は万に一つもないかも知れないのに、駒沢通りを走りぬけるペダルは軽く心は弾んだ。
雨に洗われた空気は清清しく、どこまでも続く青空は眩い光に満ち溢れていた。
そして、君を見かけた東京医療センター前の交差点は瞬く間に目の前に迫った。
僕は交差点で立ち止まり、君が現れた緩やかな下り坂の深沢方面を見詰めた。
そこには、息を切らせながら赤い自転車を漕ぐ君の姿がおぼろげに見えたが、僕はゆっくりサイクリング・コースへと向かった。
きのうの雨の反動か、サイクリング・コースとランニング・コースは色とりどりのコスチュームを纏った人で溢れていたが、雨上がりの新緑にカラフルなコスチュームが映えていた。
僕は君を見落とさぬよう細心の注意をはらいながら、数え切れないほど周回コースを回った。
しかし、結局君を見つけることはできなかった。
神はそれほど慈悲深くはなく、僕の醜い思惑を見事に打ち消すと、足には重い足かせまで巻きつけ、帰りのペタルをより重くした。
それから幾度となく、梅雨の合間をぬうように駒沢公園へ自転車を飛ばしたが、あれ以来君に会えることはなかった。
僕はあの時もう少し話をしていればと地団駄を踏み、たった一夜と数時間のことなのに、長く切ない想いでとして消え去って行った。

そして、重苦しい梅雨空にも夏を告げる青空が覗きだしたある日。
スタジオ帰りの僕に、佐伯プロデューサーからイルファのPVを見て置くようにいわれ、僕は人気のなくなった部屋でPVを回し始めた。
イルファは自社の稼ぎ頭でもあり、既に何枚ものミリオンセラーを出している女性ボーカリストだが、しなやかでリズミカルなダンスは、今ではアジアでも絶大な人気を博している。
その新曲PVは、ラップが絡んだビートの効いたリズムをバックに、イルファが鏡の前で髪をいじり、自分でメイクをするところから始まった。
そしておもむろに立ち上がると、今度はスタイリストやヘヤーメイクを従え、幾つもの鏡を覗き込むようにしながらヘアースタイルとメイクが変って行った。
僕は音とイルファの動きだけに集中して見ていたが、最後の鏡から画面が屋外プールに変わった時、僕は慌ててビデオを巻き戻した。
そしてリピートしたビデオに釘付けになった。
それは最後の鏡を覗くイルファの後ろで、イルファの髪をセットしているヘアー・メイクの子が君に似ていたからだ。
僕は慌ててビデオにストップ・モーションをかけたが、それは紛れもなく君だっだ。
君は笑顔で正面を見据え、何かを伝えるようにゆっくりと口を動かしていた。
僕は何度もリピートし口の動きを読み取った。
「あ・り・が・と・う・け・ん・ご」
僕は息を飲み画面を止めると、なぜこのPVに君が写っているのか、なぜ君は僕に呼びかけているのか、事の成り行きが理解できず暫く放心状態に陥った。
そして我に返ったように佐伯さんに連絡をとり、PVの制作会社を突き止めたが、既に深夜の為連絡はつかなかった。
こうして僕は冷静さを取り戻しながら、君が美容師だと言っていたことを思い出したが、やはり画面から僕に語りかけている意味が理解できず、悶々とした夜を過ごすこととなった。


               この続きは又・・・





 

 

| Walkin' | 15:42 | comments(0) | - |
花束 <第四章> 優しい日常

 

 

 

 


                 花束

                <第四章>

                優しい日常


僕は本当に君だったのかは半信半疑だったが、逸る気持ちを押さえ信号が変わると、脱兎の如く駒沢公園へ向かった赤い自転車を追いかけた。
そして目の前に迫ると、その赤い自転車は駒沢公園のサイクリング・コースへと入った。
僕はわき目も振らず一気に追い抜くと、背中いっぱいに君であることを念じ、振り返る勇気を心で数を数えるように待った。
そして意を決しブレーキを掛け、爪先立ちながら振り返った。
すると、何台かの自転車に追い抜かれながらも、木漏れ日の中笑みを浮かべ、ゆっくりとペダルを踏み込んでいる君が見えた。
その時、不確かだった記憶も確信へと変わり、思わず生唾を飲みながら、僕の胸はバスドラのように高鳴りだした。
10メートル、8、5・・「や〜!」
僕は、通り過ぎようとする君に声を掛けた。
君は急ブレーキをかけると、一瞬首をすぼめて固まり、それからゆっくり振り返ったが、そのまま肩で息を切らし言葉にはならなかった。
君の苦しそうな息づかいは、僕の胸の高鳴りをより刺激し、体中の血液を沸騰点に達しさせたが、僕は必死に鼓動の乱れも押さえながら近寄った。
「大丈夫?驚かせてしまって・・・でも驚いたな〜本当に君だ」
「はい、もう大丈夫です」
君は動悸を鎮めるように右手を胸に置いてたが、僕に会ったことにはさほど驚いている様子でもなかった。
「ここよく来るんですか?」と僕が聞くと「いえ、初めてです。でもず〜っと来たかったんです。この自転車も買ったばかりで・・」
君はハンドルを愛おしそうに撫でた。
「そうなんだ〜僕もなんですよ」
僕もハンドルを撫でたが、君のブリヂストンの赤い自転車と、僕のメタリック・グリーンのチネリは、恥ずかしいくらい真新しく、僕らは見比べながら照れ笑いが漏れた。
「あの〜いっしょに走ってもらえますか?」
「もちろん!」
僕の思惑を見透かすような君の申し出に、僕の頬は緩んだ。
そして、僕達は後続の自転車の邪魔もしていた事にも気がつき慌てて走り出したが、サイクリング・コースは狭い為、僕は併走したい気持ちを抑えゆっくりと君の前を走りだした。
そして、時折本当に君が後ろにいるのかを確かめるように振り返った。
そると君は、晴れ晴れとした笑顔を少し空に向け大きく深呼吸をしていた。
そしてその顔には、木漏れ日が次から次えと通り過ぎ、君の白い肌はより輝きをましていた。
僕は叫びたい気持ちを抑えながらも、この後どこでお茶を飲もうかなどと頭の中は食べブロ化し、自然に満ちたサイクリング・コースを満喫する暇などは無かった。
そして2.1キロの一周は瞬く間に過ぎ、僕は当然のように二週目に入った。
「ありがとう!楽しかった!」
その時だった、後で叫ぶ君の声が僕の思惑を見事に打ち砕いた。
僕は急ブレーキをかけ振り返ったが、既に10メートルは過ぎていた。
「ちょっちょっと待って!」
僕は慌てて引き帰そうとしたが、次から次えと後続の自転車が続き、狭いコースを逆走することができなかった。
「あの〜名前!」
視界から消えそうな君に、僕は手を振り叫んだ。
「さ・つ・き!」
そういい残し姿が見えなくなった。
僕は後続自転車の切れ目を待ち追いかけたが、既に君の痕跡は木々の葉音と影が消していた。
「なんだよ〜・・・」
諦め切れない僕は、もう一度神の施しをと願いながら駒沢公園の中を繰り返し通り抜けたが、二度と君の姿を見ることはなく、僕はまるで白日夢を見ていたかのように呆然と立ち尽くした。

こうして思わぬ運動量をこなし、その上落胆という足かせの付いたペダルは重く、マンションにたどり着いた時には、立っているのがつらいほど腿の筋肉が張っていた。
僕はシャワーを浴びると、崩れるようにソファーにうずくまったが、夕刻のテラスから差し込むオレンジ色の光には、木漏れ日に見え隠れした君の笑顔が映りこんでいた。
有香が帰ってきたのは、それから間もなくだった。
「ただいま〜!シャワー浴びたら何か作るね!」
(ね〜、疲れてるんだろ・・どこか食べに行こうよ!)
僕は心の中で叫んだが、言葉には出さなかった。
「・・・」
「今日は何していたの!」
有香はバス・ルームに入る前に叫んでいた。
「・・散歩!」
大きな声で言ったが、同時にカシャンとバスルームの戸の閉まる音が聞こえ、有香には聞こえたかどうかは分からなかった。
僕は君の残像を消したかったのか、自転車で駒沢公園に行った事を言うつもりはなかったが、
自転車に乗ったことさえ隠してしまった。
暫くして、バス・タオルを頭に巻きつけ、素っ裸で有香はバスルームから出て来た。
そんな姿も三年も見慣れると「風引くよ!」といいたくなるだけのただの裸婦であり、僕の官能を刺激する材料にはならなくなっていた。
有香はおもむろにパンツだけを穿くと、バスタオルで髪を拭きながら僕の隣に座った。
そると、有香の温もりと共に、湯上りの甘ったるい匂いが鼻孔を刺激し始め、野性が目覚めたのか僕は思わず有香の胸に抱きついた。
「やだ〜!シャワ〜浴びたばかりなんだから」
有香は僕を突き放した。
「ね〜散歩って、珍しいね・・・どの辺まで行ったの?」
僕はいじけた犬のように膝を抱きながら、やはり聞こえていたのかと思ったが、僕は散歩と言ってしまったことを後悔していた。
僕は目的もなくぶらつくことが苦手で、一人で散歩などしたことがなかったからだ。
「うん、ほら!散歩っていったって代官山まで、なんかシャツでも買おうかなって思って」
代官山は坂を上がれば、眼と鼻の先だった。
「なんだ、買い物・・」
「そうそう!ショッピング」
僕は鋭い有香の目線をかいくぐり、ソファーを立ち上がるとテラスへ向かった。
「そう・・・で、いいものあった?」
「いや何も買わなかった・・・」
僕はテラスへ出ると、ストレッチをするかのように、わけも分からなく体を動かした。
「そう・・・」
有香は言葉に余韻を残しながらソファーを立ち上がったが、それ以上は何も聞こうとはしなかった。
僕の嘘はあり地獄のように、もがけばもがくほど窮地に陥って行った。

それから有香は、いつものように手際よく料理を作り、ダイニング・テーブルには香ばしく焼かれたベーコンの乗ったクレソン・サラダとパンが置かれ、圧力鍋からはブイヤベースの磯の香りが漂い出だした。
「ビール!それとも白ワイン?」
有香は缶ビールとワイン・ボトルをかざした。
僕は「ビールかな〜」と又しても曖昧な言い方で席に着いた。
そして「お疲れさん!」と、有香の仕事の労をねぎらいビール・グラスを合わせたが、折れそうな心を必死に抑え、今度はしっかりと有香の眼を見据えた。
「疲れました〜」有香は喉元を三回震わせながらビールを飲むと「プファ〜」と眼を閉じながら歓喜の声を上げ、いつものようにその日の仕事の話を始めた。
僕は黙って相槌を打ち、時折「あの馬鹿!何にも分かっていない!」などとクライアントに対し爆発する有香に「そうだよな〜」などと曖昧な賛同をしながらブイヤベースの鱈を口にした。
「うまい!」
「ね〜、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ」
話の腰を折ったようで、有香は不満げな声を発したが顔は笑顔だった。
そして「ご飯も温めればあるよ」と、気遣いも忘れずに付け加えた。
こんな平穏な有香との生活も、テラスから見える季節の移り変わりも、日常のひとコマとして当たり前のように過ごして来たが、時折ソーリからも聞かれる二文字が頭を過った。
「結婚しないの?」ソーリは三年も同棲し、何ら不満もないなら当然結婚するべきだと、自分の家庭生活の幸せを押し付ける。
僕も有香との結婚を考えたことがない分けではなかったが、僕には結婚の意味が理解できていないのか、それともただたんに責任を取ることが怖いのか、少なくとも考えないように逃げているのは確かだった。
僕は小学四年の時に母親を病で亡くし、母の優しさも家庭的な温もりにも飢えたまま育った。
その事が原因かどうかは分からないが、幸せの定義が結婚に結びつくとは思えないからだ。
そして有香にしても、時折友達の結婚生活や子供の話を楽しそうにはするが、それを僕に望んでいる事なのかは分からなかった。
むしろ今は、避妊に敏感なほど仕事に意欲を燃やしているようで、今の僕達のライフ・スタイルには満足しているようにも思えていた。

しかしこんな優しい日常を、僕はどうするつもりなのか。
有香の顔を見ながら後ろめたさは込み上げていたが、それでも僕は、今度の休みも駒沢公園に行くことを決意していた。



                   この続きは又・・・

 

 

| Walkin' | 15:41 | comments(0) | - |
花束 <第三章> 葉桜の季節に

 

 

 

 


             花束 
              
            <第三章>

           葉桜の季節に



山下有香とは料理家の鍋島みどりのホーム・パーティーで知り合った。
鍋島みどりは、普通の主婦が売れっ子料理家へと変身した先駆者でもあり、今や彼女の料理本は海外でも翻訳され、世界的にも著名な料理家になった。
そして彼女の快活で自由奔放な言動は、企業家から芸能人まで幅広い交友関係を築いていた。
そんな鍋島みどりの自由が丘の家は、広々としたリビング・ルームに、仕事場ともいえる大きなオープンのダイニング・キッチンが備わっていた。
そしてガーデニングが美しいテラスからは、青々とした芝が引きつめられた庭が広がり、既に
30人近い著名人が集まっていた。
僕はそんな華やかな場所に縁はなかったのだが、可愛がられていた先輩の大物プロデューサーである、佐伯真二に連れてこられたのだ。
佐伯真二は元歌手でもあり、当然友好関係が広かった。
その為、佐伯さんは家に入るなり挨拶が忙しく、僕はまるで借りてきた猫のように片隅に佇んでいた。
暫くして、そんな僕の顔の前にカナッペを乗せた小皿を差し出したのが有香だった。
「あまり召し上がっていないみたいですね」
確かに僕は、緊張のあまりか食べ物には手をつけてはいなかった。
「ありがとう」
僕は小皿を受け取ったが、有香のキラキラとした大きな黒目が、脳を突きぬけ後頭部まで見透かされているようで、たまらず目線をはずした。
「お一人で?」
「いえ、あの佐伯さんに連れられて」
「佐伯さんて、あの佐伯真二さん?」
「そうです」
「じゃ〜あなたも・・歌手?」
「いやいや、僕は違いますよ・・」
僕は慌てて手を振りながら、チラリと有香の顔を見たが、すぐに目線を落とした。
「ごめんなさい・・何なさっているんですか?」
有香は僕の顔を覗き込むように首をかしげた。
「ああ、プロデューサーの卵のようなもんです」
立て続けに質問をする有香に、僕は少したじろぎながら小学校の時の事が脳裏を過った。
僕は、今でこそ背は180近くになったが、小学校の時は背が低く、隣の席にいた大きな女の子に、いつも威圧低に質問をされ、まるでそれが怒られているようで怖かったのだ。
「へ〜おもしろそう・・・じゃ〜ごゆっくり」
最後にそういい残すと、有香は僕の前から立ち去りキッチンへ向かった。
当時有香は、フード・コーディネーターの資格を取得していたが、料理の実践にこだわり鍋島みどりのアシスタントとして働いていたのだ。
有香は、ショート・カットの髪に大きな眼が印象的だったが、エプロン姿の他のアシスタント達とは違い、一人黒の長い前掛けを、形のいい腰にキリリと締めていた。
その姿はまるでパリのカフェで働くウエイターのようでもあった。
しかし、何よりも僕が魅了されたのは、長い前掛けに隠れていた足が、後ろ姿ではミニスカートからすらりと伸びていたからだ。
その上キリリとした足首が、僕の官能を十分刺激してしまった。

それから佐伯さんは、孤立している僕を見かね何人かの人を紹介はしてくれたが、大した実績のないプロデューサーなど誰も相手にはせず、僕は見慣れた俳優や大物歌手を、物見遊山で観賞しながら落ちつかない時間を過ごしていた。
しかしそうなれば後は飲むしかなく、普段は飲めない高級なワインを飲みあさった。
そして気がつけば、僕はオープン・キッチンに入り込んでいた。
「お客様は、あちらの方が・・」
エプロン姿のスタッフが笑顔で僕を制した。
「お水ですか?」
すると有香が、水の入ったグラスを僕の顔の前に差し出した。
僕は黙ってグラスを受け取り水を飲み干しと「僕をよろしく!」と名詞を渡したらしい。
「・・・」
酒は時折、人に勇気とチャンスを与えるものだ。
結局その後の記憶は希薄で、次の日の有香からのメールがなければ、今の僕達の関係はなかった事になるのだが、有香が気遣いのメールをくれたのには理由があった。
こう見えて僕は、性格には多々難点はあるものの、顔はミスチルの桜井和寿に似ているといわれるほどで、見た目が悪くなかったことも功をなしたともいえるが、すきっ腹で飲み過ぎた僕は、結局気持ちが悪くなり鍋島みどりの指示でタクシーを呼んでもらう羽目になった。
そして、それを見送ってくれたのが有香だったからだ。

こうして僕と有香は付き合うようになったが、半年後には同棲していた。
早いかも知れないが、同棲のきっかは至極必然的な理由だった。
当時、僕は新宿区の市谷のマンションに住み、有香は西武新宿線の上石神井に住んでいた。
酒を飲むことに人一倍執着心のある二人は、会えば当然のように帰宅が遅くなり、有香は都心の僕のマンションに泊まることが多くなっていった。
気がつけば、僕の部屋には有香の着替えが増え、バスルームには化粧品が、引き出しには下着が詰まり出した。
その上ジャンク・フードとラーメン。それにコンビニ弁当でメタボ気味だった僕の食生活は、有香の手料理で驚異的に改善されはじめた。
「ね〜引っ越してくれば?」
ある日有香の手料理に舌づつみを打ちながら、僕が切り出した。
「・・やっぱそうかな〜・・そうだね」
有香は、都心の便利さに心が動いたようだった。
それならばということで、二人で住むには少し手狭な僕のマンションは引き払うこととなった。
大きな公園に近い代々木上原、食文化圏の恵比寿、そしてリッチ気分の麻布と幾つもの物件を回ったが、結局今の中目黒に落ち着いた。
決め手になったのは、このマンション五階のテラスに立った時だった。
二人は顔を見合わせ、黙って頷いていた。
それは眼下に、目黒川沿いの桜並木が広がっていたからだ。
それまで僕達は、桜は見上げるものと思っていた。
しかしその桜並木は、渓谷をフワフワと流れる桜霞のようで、春の日差しに照らされた花びらは、うたかたの夢見草と化していた。

そんな今年の桜も、花吹雪が舞い川面は花筏となったが、既に葉桜になった。
そして目黒川沿いの喧騒も、今は落ち着きを取り戻していた。
僕は、有香を起こさないように静かに部屋に入った。
ダイニング・ルームには間接照明だけが薄ぼんやりと灯っていた。
カバンをソファーに投げ出した僕は、そのまま冷蔵庫に向うと、喉の渇きを潤す為に缶ビールのプル・トップを開けた。
プシューという音が、既に乾いた喉の奥に反応していた。
「帰ったの・・・」
その時トイレに起きたのか、後ろから有香のまどろんだ声が聞こえた。
僕は、ビールがゴクンと喉元を過ぎた後だけに「ウガウグ・・」と、言葉にはならず振り返った。
有香は、眠そうな顔つきのまま僕に手を振り、寝室に戻って行ったが、頭の隅に君の残像が残っていた僕は、体が硬直するほど驚いた。
そして、有香が寝室に消えてから「なんだよもう〜」とはき捨て、膝から崩れ落ちるようにダイニング・チェアーに座りこんだ。

翌日休みだった僕は、昼ごろまで寝ていたのだが、既に有香の姿はなかった。
ダイニング・テーブルには、焼いたアジの開きと納豆がラップしてあり、ガス・レンジの上には味噌汁の入った鍋が用意してあった。
・・・夕方までには終わると思うよ!・・・
赤いマグネットで、メモが冷蔵庫の扉に張ってあった。
メモがテーブルの上ではなかったのは、有香が僕の癖を知っていたからだ。
僕の一日は、寝起きに冷蔵庫を開ける事から始まる。
決して喉の渇きを潤すために飲み物を探すためではなく、何かを確認するかのように開ける。
しかし、その何かは未だに分からず、今となってはただの習癖として気にしないようにしている。
メモを丸めてゴミ箱に投げ入れると、一段と大きくなった冷蔵庫の中を暫く見詰めた。
これも二人で住むようになったからだが、冷蔵庫の中は料理人らしく、タッパウエアーなどが整然と置かれ、常にミネラル・ウオーターと缶ビールが冷えていた。
一人暮らしの時との大きな違いではあるが、幸福が詰まっている光景だ。
さすがに昨夜の酒が残っているのか、僕はミネラル・ウオーターを取り出すと一気に喉を潤した。
有香がいれば怒られるであろうラッパ飲みで。
アジを電子レンジで温め、なめこと大根の入った赤だしの味噌汁を啜った。
有香の実家は岐阜の為、あわせ味噌になれた僕には戸惑いもあったが、今ではしっかり赤だしに慣らされてしまった。
それから食後のまどろみの中、テラスから青く抜けた空を確認すると、壁に寄りかかる買ったばかりのメタリック・グリーンのロード・レーサーを見詰めた。
総額数十万円のイタリアのチネリとマッシュがコラボした自転車で、衝動買いをしたものだ。
日ごろの運動不足解消の為とはいえ、こんな高額の自転車を買うつもりはなかったのだが、青山のキラー通りに幾つものロード・バイクショップができたのが気になり、見に行ったのがきっかけだった。
僕はマッシュというメタリック・グリーンの色とフォルムに魅せられてしまったのだ。
聞けばフレームと車輪。それにハンドルからサドル、ペダル、ギヤーと、幾つものパーツで買い求めるとの事だった。
しかし、僕はめんどくささと待つのが嫌で、ショップに飾られてあった完成品を求めた。
そしてそのままぎこちなく乗って帰ったが、マンションの駐輪場では盗難が怖く、そのまま部屋へ持ち込んだ。
「何々!どうしたの?」
突発的な出来事に、有香は嬉しそうだった。
「買っちゃった・・・」
僕は高額な為か、後ろめたさも手伝い照れ笑いの表情になっていた。
「へ〜かっこいいね〜」
「だろ〜!」
有香の反応に、僕は得意げな顔に変わった。
有香はマッシュを嘗め回すように眺めると「これどこの・・高そうだね〜」
と僕の顔を見た。
「イタリアの・・」
僕はドキッとし、冷静さを失いかけた。
「ふ〜ん、だからかっこいいんだ〜・・で、いくらだったの?」
有香はマッシュに跨った。
「あ〜それ、8万ぐらい」
僕は嘘をつくしかなかったが、それよりもサドルを高めにしたマッシュに、僕は足がつま先立ちになるのだが、有香の奴はしっかりと地に足が着き、僕のちっちゃな自尊心は傷ついていた。
「え〜そんなにするんだ。凄いね〜」
その上僕は、まるで窮地に追い詰められた詐欺師のように、冷静さを保つのに必死だった。
しかし考えてみれば、同棲生活ではあるが16万の家賃の折半以外は、光熱費や食費は僕が払っているわけで、僕が何を買おうが、なんら有香に後ろめたさを感じることはなかったのだが。

そんな買った時を思いだしながら、僕は片手でも軽々と持てるマッシュを部屋から出した。
マンションの前で真新しく光るフォルムを一瞥し、ナルシストぶりを発揮しながら誇らしげに跨ると、ゆっくりペダルを踏み込んだ。
しかしそんな薄っぺらな自尊心は瞬く間に打ち砕かれた。
マッシュは車輪も細く車体も軽い為、ハンドルが微妙にぶれ、僕は押さえつけるのに必死になり肩に力が入っていた。
それでも徐々になれ、肩の力を抜きながら駒沢通りへ向かった。
そして駒沢通りを右に曲がると、必死に坂を上り駒沢公園を目指した。
僕は狭い駒沢通りを、追いすがる車に気をつけながらペースを乱すことなくひた走った。
暫くすると、体をすり抜ける風が、脳裏に過去の風景を蘇りさせ、童心へと導いていた。
初めて自転車に乗れた時の浮遊感。
学校までの通学路。
そして溝への転落事故と・・・
こうして環状七号線を渡る頃には、僕のトレーナーは薄っすらと汗ばみだしたが、汗と共に体中の老廃物までもが噴出し、爽快感が新たな細胞をつくりだしているようだった。
その上、久しぶりの運動にも一年前に止めたタバコの効果は歴然と現れているようで、呼吸はあまり乱れず、またマッシュの機能が日頃の運動不足を補っていた。

それから程なく走ると、行く手に駒沢公園が見えたが、手前の東京医療センター前の信号が赤になった。
僕はゆっくり体を起こし、背伸びをしながら前かがみになっていた首を回しほぐした。
その時、一台の赤い自転車が颯爽と僕の前を横切った。
(あ!)
僕は心の中で叫んだ。
それは、花束を抱えていた君のようだったからだ。


           この続きはまた・・・





 

 

 

| Walkin' | 15:40 | comments(0) | - |
花束  <第二章>壊れそうな笑顔

 

 


          花束
          
         第二章

        壊れそうな笑顔 



僕は、花束を抱えた君の姿が脳裏から消えぬまま<GRAN AVENUE BAR>と書かれた、重厚な木のドアを引き開けた。
すると、圧縮された生暖かな空気が顔をかすめ、DR・ジョンのハスキーでエキゾチックな声がピアノの旋律にシャウトしていた。
薄暗い店内は、緩い曲線を描いたカウンターをダウン・ライトが浮き上がらせ、タバコの煙が揺らぐ前には、二人の女性がイケメン・バーテンダーにかぶりついていた。
女性の甲高い笑い声が耳を突き刺したが、僕はその女性達の横顔を垣間見ながら奥のラウンジへ向かった。
ラウンジは、六つほどのテーブル席をキャンドルが映し出し、そのほとんどは客で埋まっていたが、奥の壁際のテーブルで手を振るソーリ(吉田繁)が見えた。
僕はいちゃつくカップルのテーブルの間をすり抜け、ソーリ達のテーブルにたどり着いた。
「お〜!やっと来たな!」
僕はソーリとハイタッチをし,背中を見せていたカメ(河村陽一)とコミ(小宮山満)の肩を両手で抱えた。
「お〜!」
カメはくちゃくちゃな笑顔で振り向いたが、コミはいたって冷静な顔をしていた。
「おまたせ〜!しかし相変わらず色気なしか〜」
他のテーブルには女性連れが目立ち、男三人で飲んでいるのはこのテーブルだけだった。
その上これから僕が加わる事で、むさ苦しさは増すことになる。
「何言ってんの、男だけで飲もうっていったのは、あんたでしょ!」
カメが大きな声を出した。
「だね〜」
僕は、すでに泥酔状態にちかいカメの肩に腕を回し抱き寄せた。
そして僕はみんなの顔を窺いながら、花束を抱えた君の事が喉元まで出かかったのだが。
「うっ、うううっ・・・」
突然カメが口を押さえながらトイレへ走った。
「カメ!なんだあいつ、そんなに飲んでるの?」
僕はコミとソーリの顔を見た。
「そんなでもないけどな〜」
ソーリがトイレの方を見ながら答えた。
カメはもともと酒は強くないが、時折自虐的に飲むことがある。
そんなカメだが、スタジオ・ミュージシャンとしてのベースの腕は一級品で、一流ミュージシャンのツアーなどに呼ばれるほどだった。
「そういえばどう?曲は決まったか?」
映像作家のコミが、真顔で進行状態を聞いてきた。
あまり飲んでいないようだった。
コミには、僕が手がけている新人歌手のプロモーション・ビデオの制作をしてもらうことになっていた。
「もう少し煮詰めないと駄目かな〜」
「そう・・」
「何だよ!仕事の話はよそうよ」
ソーリがどんよりした眼で割って入ってきた。
「あ〜ごめんごめん。もうしないから」
僕は三人に早く追いつこうとビールを飲みほすと、ウオッカ・トニックを頼んだ。
しかし既に三時間は経っている為、三人に追いつくのは至難の業だと思った。
現にカメは既に沈没状態であり、家庭思いのソーリが帰るのも時間の問題だった。
結婚しているのはソーリだけではなく、コミも既婚者だが、ソーリは愛妻家であり、4歳になる一人娘を姫と呼び、携帯の待ちうけにしているほど溺愛している。
しかしコミは結婚して3年は経つが、子供はまだできないようだ。
できないのか作らないのかは分からないが、コミは結婚当初から徹夜で仕事をすることが多く、あまり家には帰らないらしい。
確かにPCの映像作家にはありがちではあるが、コミの嫁ものんびりしたもので、そのことに関しては納得しているようだ。
といっても、どこまで納得しているのかは分からないが、二人がそれでいいのなら他人がとやかく言うことではないと、僕もそ知らぬ顔を決め込んでいるのだが、最近のコミは何かふさぎ気味で、気にはなっている。
「俺、そろそろ引き上げるよ」
天然パーマの髪に、細めのフレーム・メガネがよく似合うソーリが、僕の肩に手を掛けた。
「そうなの・・・悪かったね今日は」
僕は名残惜しそうには言ったが引き留めはしなかった。
ソーリは漫画雑誌の入稿が近く忙しいはずだったからだ。
「うん、また連絡してよ。じゃ〜な・コミ・・そうだ、カメちゃんにもよろしく」
ソーリは優しい笑顔でそういい残し帰って行ったが、テーブルの上に5千円札を置いていった。
もともとソーリはコミの友達で、僕とカメに紹介してくれたのだったが、この四人の中ではソーリが一番誠実でまともかも知れない。
暫くしてカメがヨレヨレと席に戻って来たが、僕は限界だと思いそのまま愚図るカメを外へ連れ出した。
「なんだよ〜帰らないよ〜」
「はいはい、いいから・・・」
運よく店の前でタクシーを拾うことができ、強引に乗せようとしたが、カメは道行く人が怪訝そうに見つめほど僕に抱きつき、キスをしろと迫ってきた。
カメの後ろで束ねた長い髪が僕の手に絡みつき、少しメタボ気味の体を支えるのは一苦労だった。
そう、カメのもう一つの悪い癖は、酔うと僕にキスを迫ることだ。
だからといってカメがゲイかといえば、それはノウだ。
現在彼女はいないが、類まれなる女好きで風俗店の常連でもある。
そんなカメをタクシーに押し込めるのに少し手間取ったが、店に戻るとカウンター席の数人を残し、ラウンジの客は引けていたが、一人キャンドルの灯りに浮かび上がるコミが、心なしか寂しそうに見えた。
僕が席に戻ると「カメちゃん大丈夫だったか?」とコミは作り笑いをした。
僕はそんなコミがやはり気にはなったが、そのことには触れる事ができなかった。
その後僕らは、いま係わっている新人歌手の話になってしまったが、コミはすでに酒は飲まず、僕は深夜だというのにストレスが溜まる飲み方になってしまった。
そして時計が3時を回り、コミは僕の引き留めにも首を縦には振らず外に出た。
「コミ、今日は家に帰るんだろ?」
僕は、今夜こそコミには家に帰って欲しかった。
しかしコミは、まだ遣り残したことがあるからと、やはり家には帰らず代々木の事務所へ向かってしまった。
確かに映像作家には昼も夜もないが。
僕はタクシーのテール・ランプを見送りながら、やはりコミの悩みを聞いてあげればよかったと反省したものの、いつも面倒なことから逃げ腰しの自分が歯がゆく、後ろめたさだけが残った。
僕は人との係わりに、一歩踏み込む勇気が無いのか、ただたんに一線を引いているだけなのか、自分でもよく分からなくなる。
コミと別れた僕は、飲み足りなさを感じながらも、酔っているのかいないのか判断ができなかった。
しかし、夜風がことのほか気持ちよく感じるところを見ると、火照った体には十分酒が詰まっているようではあった。
僕はタクシーに乗り込み、自宅のある中目黒を告げると、携帯を取り出しメールの確認をした。
<先に寝るね!あまりのみ過ぎないようにね。お・や・す・み>
同棲中の山下有香からだ。
有香は28歳で、仕事はフード・コーディネイターをしている。
本来なら外食産業などの企画や、店の営業指導などを手がけるのだが、今は売れっ子料理家の鍋島みどりの一番弟子として働いている。
僕はタクシーのリア・ウインドを開け、夜風を浴びながらまた君の姿を思い出していた。
大きな花束に隠れるほどの華奢な体。
抜けるような白い肌に、栗色の髪。
そして、君のどこかもの悲しく壊れそうな笑顔。


                     この続きはまた・・・

 

| Walkin' | 15:39 | comments(0) | - |
海の如く、強く優しい愛しき人達へ  ≪13≫ 花束

         


             

 

                          海の如く、強く優しい愛しき人達へ ≪13≫

                花束 (改訂版) 
                     
                 第一章

                五月の風に・・・


人生は不可解ではあるが、それでも人は必然的なものに導かれているようだ。
しかし、時折偶然という魔物に翻弄されるからおもしろい。

あれは友人達との飲み会で、六本木に向かう時だった。
僕は仕事の打ち合わせが長引き、待ち合わせの21時には到底間に合わなかった。
幾度も携帯が鳴り響き、一度は遅れる旨をレスしたのだが、そんなことでへこたれる連中ではなく、ヤンヤの催促メールが送られて来ていた。
そんなメールを無視しながらも、やっとのことで会社を後にしたのは、時計の針が深夜12時を回った時だった。
僕は数人のスタッフを残し、一人18階のエレベーターに乗り込んだ。
深夜のエレベーターは不気味な静けさに包まれ、怖がりの僕には数秒でさえもとても長く感じてしまい、このまま取り残されたらどうしようなどと、悲観的なことが頭を過る。
静かに下降するエレベーターの数字を見ながら、早く,砲覆譴箸隆蠅い箸藁∧△豊Г点滅した。
そしてドアが開いたが誰も乗り込む気配は無く、僕は慌ててボタンを押したが、ドアが閉まる寸前に誰かの手がドアを遮るのではないかと少し心臓が高鳴ったが、何事も無くドアが閉まると、ため息が出るほど安堵感に包まれた。
それから数字が点滅することはなく無事ロビーに降り立ったが、すでに人影はなく、警備員らしき人の渇いた靴音だけが、時を刻むように木霊しているだけだった。
しかし、ビルのエントランス・ドアが開くと、外は静寂のロビーとは裏腹に強風が音をたてて吹きまくっていた。
僕は体が飛ばされないように、しっかりと下半身に意識を集中させ、一歩一歩踏みしめるように歩き出したが、今夜が雨でないことにも感謝していた。
それというのも、会社がこの青山一丁目の24階もある高層ビルに移転してから、ビル風のお陰で傘を幾つも犠牲にしてきたからだ。
僕は風に逆らうように体を前かがみに倒しながら広い歩道を横切り、空車の表示ライトを見つけ手を上げた。
すると突然風は激しさを消し、嘘のように静まりかえった。
そして頬をかすめる風は、穏やかで清清しい五月の風に変わったのだ。
僕は蝉の脱皮の如く、背筋を伸ばしながら夜空を見上げ、ふ〜っと息を吐いた。
都心の夜空の数えるほどの星は、今にも消え入りそうに点滅していたが、大熊座の北斗七星だけは、北の空に燦然と輝いていた。
明るい都会の夜空でも、常に北斗七星だけは輝きを失わず、僕らを導き安らぎを与えてくれるものだ。
既にタクシーは目の前に止まりドアを開けていたが、僕は北斗七星に大熊のシルエットをなぞると、そのまま運転手に手を掲げ「すいません!」といいながら軽く頭を下げた。
運転手の舌打ちが聞こえた気がしたが、僕は五月の風に背中を押されるように六本木へ歩きだした。
その時、またポケットの携帯がバイブした。
「まだか〜!」
にぎやかな声が耳に劈き、彼らの笑顔が浮かんだ。
僕の軽やかな足取りは、そのまま人気のない外苑東通りを進むと、正面には薄っぺらなブリキ細工のような六本木ヒルズが、我が物顔で夜空に聳え立ち、通りの右手には、桂由実のブライダル・サロンが、まるでバタークリームのケーキのようにライト・アップされ、燦然と浮き上がっていた。
ウインド・ディスプレーには、ウエディング・ドレスを着たマネキンが誇らしげな笑みを浮かべながらポーズをとっていたが、隣のタキシード姿の男マネキンに目をやり、こんな日が自分にも訪れるのだろうかと、思いは馳せてはみたが、新たな家族を持つことへの不安と自身の無さが、まったく結婚には積極的ではない自分にも気ずかされた。
そんなことが頭を過りながらも、足取りの軽さからか、常に頭にスカーフを巻き、福笑いのような笑みを浮かべる桂由実の顔が浮かび、僕は薄笑いが込み上げて来た。
遡行している内に、左手に乃木神社へ降りる茂みが広がる橋を渡ると、道路は緩やかに左に曲がった。
目指す六本木の光は既に視界に入り、六本木ミッド・タウンの灯りも見え始めた。
ミッド・タウンは六本木ヒルズの薄っぺらさとは異なり、重厚で威厳さえを感じさせていたが、エントランス前の広場は、既に人影もまばらだった。
そしてミッド・タウンの裏手に回る道に目をやりながら、去年のクリスマス・イルミネーションを思い浮かべ、ふと視線を前に戻した時だった。
華奢な体が隠れるほどの、大きな花束を抱えながら歩いている君が見えた。
そして、小さな歩幅の君に追いつくのには、さほど時間は掛からなかった。
僕はヒタヒタとストーカーのように近ずき一気に追い抜くと、振り向きざまに声を掛けた。
「重そうですね」
「・・いえ、大丈夫です」
君は一瞬怪訝そうな顔で僕をみたが、すぐに笑を取り戻し前を見た。
街路灯に映し出された君の透き通るような白い肌は、まるで繊細なガラス細工のようだった。
「どこまで?」
「え?」
君は首をかしげながら僕の顔を見た。
「どこまで歩くんですか?」
僕はもう一度聞き直した。
「あ〜飯倉までです」
君は笑顔のままだった。
「そう、それじゃ〜方向一緒だ。それ、持ちますよ!」
この時、僕は自分の言動が信じられなかった。
ナンパなどしたことがない僕が、深夜路上で君に話し掛けていたからだ。
これも清清しい五月の風のせいだったのかも知れない。
「いえ、大丈夫です」
君は少し警戒したのか、反射的に花束を反対に持ち替えた。
「いや、ほら!あれ、変なあれじゃないから、ほんとに・・」
このとき僕は自分の行動に少しうろたえたのか、しどろもどろになっていた。
「・・・はい、じゃ〜」
そんな僕の動揺に気づいたかのように君は立ち止まり、花束を僕に差し出した。
「あ!はい・・ほんと大きい花束ですね・・誰かの誕生日とか?」
僕の腕の中に移った花束からは、白い大きな百合の香りが漂った。
「あ〜重かった」
君は両手をブラブラさせながら答えた。
「誕生日・・そうなんです誕生日です」
何かを思い出したように答えた君。
「こんな時間から?」
「ええ、私は今まで仕事してたから・・もう盛り上がってると思う」
「仕事か〜大変だね」
「はい」
僕は(そうなんだ〜僕も今まで仕事で・・)と言おうとしたが、頭の中はキャバクラで働く君の姿が浮かんでいた。深夜に仕事が終わったということだけで、勝手に決め付けていたのだ。
冷静に考えれば、君はキャパクラ帰りの派手な格好などではなかったのだったが。
「お店なんていうの?」
僕は君の顔を覗き込んだ。
「・・・教えたら、今度きてくれます?」
君はいたずらっぽく、上目ずかいで答えた。
「いくいく!行きますよ〜」
僕は能天気な反応をしたが、君は薄ら笑いを浮かべながら少し間を置き
ち・が・い・ま・す・よ・・お店といっても美容室です」
「えっ!あ〜ぁ!そうなんだ・・美容室か〜すいません」
僕は「いくいく!行きますよ〜」などと、ふしだらな想像をしたことに、顔が熱くなるほど恥ずかしかった。
「いえ、いいんです、べつに・・」
君は語尾が消え入りそうな声になり、顔から笑顔が消えた。
僕は君が気分を害したのだろうと思い、気の利いた言葉を捜したが、僕はそんなボキャブラリーを持ち合わせていなかった。
そしてそのまま会話は途切れ、並んで歩く二人の間には気まずい雰囲気が漂った。
僕は必死に話題を捜したが、すでに飯倉の交差点が視界に入っていた。
「ありがとうございます。もうそこなので」
「あっはい」
君は深ぶかとおじぎをし、僕から花束を受け取ると車の途絶えた車道を横切り交差点手前の路地に消えた。
僕は君が路地に消えた時、名前を聞かなかったことに気がついた。
少なくとも、美容室の場所ぐらい聞いておけばよかったと悔やんだ。
こうして結末は情けないものなってしまったが、短いひと時でも、君に出会えたことに、歩いて来たことが正解だったと心は晴れやかだった。
僕は苦笑いを浮かべながら、目的の信号を二つも通り過ぎたのを戻り、ロアビルとマックの間を左に曲がった。
するとそこには、1971年にロンドンで誕生したという、ハード・ロック・カフェのギター・ネオンが燦然と輝いていた。
この六本木店は、東京デズニーランドができた1983年、女の子が大手を振って酒を飲めることになった、カフェ・バー全盛とともに誕生したらしい。
僕らがまだ、ガチャピン・ムックと遊んでいる頃だ。
店内はアメリカ南部のダイナーのようで、ジャンク・フード好きの僕には心が躍るつくりだった。
そんなハード・ロック・カフェの外壁の、未だよじ登り切れずにぶら下がるキングコングを横目に右に曲がると、目指すバーの看板が見えた。
今夜の飲み友達は、仕事関連で知り合った仲間だが、同世代ということもあり時折集まるのだった。
漫画雑誌編集者のソーリこと吉田繁。ソーリとは、字は違うが元総理大臣と同姓同名だからだ。
それからベーシストのカメチャンこと河村陽一。酔っ払うと海亀の産卵のまねをする。
もう一人は映像作家のコミチャンこと小宮山満。
そして僕は笠井健悟32歳。ケンと呼ばれ音楽プロデューサーをしている。
全員夜型だが、どちらかというと肉食系とは程遠く草食系だ。
今夜は朝まで飲むことになると覚悟はしていた。
                

               この続きはまた・・



                                         
             
















 

| Walkin' | 15:37 | comments(0) | - |
<Cafe Win> 通信



                                                    
                                      Cafe Win 通信

           カボチャのタイ・カレー始めました!

               ¥800

       
 

      

 
| Walkin' | 14:31 | comments(0) | - |
cafeの空耳 2015





                        Cafe の空耳・・・2015
                            いつもの事

先に部屋を出た君を見送るため、マンションの外階段へ出た。
外階段は隣りの家の新緑に覆われ、まるで小さな森のようだ。
軽やかに駆け下りる君の肩にはゆらゆらと木漏れ日が射し、君の鼻先には踊るように若葉がかすめていた。
僕は思わず「愛しているよ」と心の中でつぶやいた。
階段を下りきった君は振り返ると、両手を腰にあてながら、勝ち誇ったように足を開き、顎を少ししゃくりあげると涼しげに笑った。
                
「なんで?・・・なんで言ってくれなかったの!」
そういいながら、空っぽのワイングラスを悲しみで満たしていた、きのうの夜が嘘のように・・・・

                                   by Hide
| Walkin' | 16:15 | comments(0) | - |
由比ヶ浜からの風  <最終章> 四季の流れる穂高川
     
    



              由比ヶ浜からの風

           最終章の始まり

          四季の流れる穂高川


月島の工房に環が住みはじめ、まるで半同棲生活のような奇妙な時間が流れていた。
僕が毎朝工房へ着く頃には、環はすでにバイトに出掛けいないのは分かっていたが、それでも環の存在を確かめるように二階へ上がった。
無味乾燥だった部屋はすでに環の温もりと残り香が充満し、まるで幸せの詰まった玉手箱のように変化していた。
そして心躍る思いで環の帰りを待つ。
まるで新居で旦那の帰りを待ちわびる新妻の心境だ。
その上、僕はバイクでの二人乗りはしない主義だったのだが、環の切望にそんな掟もなんなく破り、背中に環の温もりと息づかいを感じながらタンディムを楽しんだ。
そしていつしか物干し台には、コールマンのリゾート・チェアーが二つ置かれ、二人は夜風に吹かれながらグラスを傾けた。
そんな中、環は意欲的にガラス工芸の勉強を始めたのだが、もともと感覚も感性も豊かな環の集中力には眼を見張るものがあった。
環が初めて工房の二階に上がり、外光をふんだんに取り込み光り輝いていた僕の作品を見た時「綺麗!」とか「素敵!」などとおざなりの反応ではなく、黙ってなにかを確認するかのように心にしまい込んでいた。
今思えば、あれが環のガラス工芸に対する興味と意欲の現われであったのだろう。
しかし、そんな幸せな日々が数週間続いても、僕の心はどこか晴れてはいなかった。
それは、環が時折見せる表情にあった。
天真爛漫に装う環の心には今だ小さな風穴が開いているようで、僕の腕の中でも心がどこか遠くを見ている時があったからだ。
久木田を嫌いになり別れたわけではない環にとって、きっとその先には久木田が見えているに違いない。
僕と久木田の立場が逆転した今、僕はいつの間にか久木田に嫉妬し始めていることに気がついた。
久木田は、今でも環が去った理由を僕の存在だけだと思っているのだろう。
そして、環もあえて久木田には本当の理由を伝えてはいないはずだ。
それだけに、環の久木田の対する想いが残っているようで、日に日に僕は息苦しさを感じ始めていた。
「ね〜明日の夜は満月だって知ってる?」
その夜物干し台のデッキ・チェアーに座るなり環が空を仰いだ。
「ああ、仲秋の名月だろ・・・」
僕も物干し台に出ながら夜空を見上げた。
「うん、晴れるといいな〜・・・」
環は流れる雲間に見え隠れするる月明かり探していた。
そんな環の横顔を見ながら、このとき僕は環をつれて長野の安曇野に帰る決意をした。
東京という怪しげな不夜城に憧れ、一度は身を置いてみたが、それはまるで張りぼての映画のセットのような、欲と虚飾にまみれた世界でしかなかった。
それでも月島の川沿いに工房を作ることで、少しはストレスのガス抜きにはなっていたのだが、所詮は付け焼刃、僕はそんなまやかしにも限界を感じ始め、創作意欲にも影を落とし始めていた。
安曇野に帰れば、真夏でも爽やかな風に包まれ、穂高川のせせらぎの音は心を和ませ、雄大な北アルプスの山麓に広がる田園風景が、新たな創作意欲を掻き立ててくれるに違いはなく、そんな情景を環にも感じさせなければと思ったからだ。
しかし、そんな僕の思いを切り裂くように、次の日環は帰って来なかった。
隅田川の夜空には満月が輝き、川面はその光に揺れていた。
僕の脳裏には、髪をなびかせながら川辺に立っていた環の後姿が、まるで絵空事のように浮かんだ。
心のどこかで覚悟をしていたとはいえ、悲しみの深さが癒えるわけではなかったが、それでもなぜか環を追いかける気にはなれずにいた。
決して大人ぶったわけでもなく、勇気が無かったわけでもないが、所詮はひと夏の恋、そっとしておくことが環にしてあげる優しさのような気がしたからだ。
僕は環がこのまま連絡もせずに、跡形もなく消えてくれればと願った。
しかしそんな願いも叶わず、それから数日後環から電話がかかってきた。
「ごめんなさい・・・」
環は泣いていた。
「いまのコウちゃんを放っておけないの・・本当にごめんなさい・・あなたを傷つけてしまった・・でも私は速水さんのこと」
「環!いいんだ・・もういいんだよ分かってる」
と、僕は冷静さを保ちながらも環の声を聞いてしまった今、すぐにでも抱きしめたいとの想いから、思わず「会いたい!」と叫んでしまいそうな衝動を必死にこらえた。
環は、久木田が実家を継ぐ決心をしたので傍にいて欲しいと、泣きながら言ってきたことを話した。
僕は久木田が泣いて懇願したことを聞き、汚い手を使いやがってと、思わず僕も泣きの一手を使うかと頭を過ったが、すでに僕の頭の中は混沌とし、早く携帯をかなぐり捨てたい心境に陥っていた。
「じゃ〜元気でね・・」
僕は精一杯明るい声を張り上げた。
「・・・本当にごめんなさい」
環のすすり泣く声が胸を締めつけたが、気がつくとツ〜ツ〜ツ〜という無常な音だけが寂しく鳴り響いていた。

           
              最終章の終わり


四輪駆動の車を降り、サクサクサクと昨夜降り積もった新雪を踏みしめながら僕は新しい工房の引き戸を開けた。
工房は、運よく安曇野市の実家から車で40分ほどの農地の隅に建っていた古民家を借り、改装して灯油の窯を作った。
工房の中は深々と冷えていたが、窓から差し込む光がガラス細工にあたり神々しく乱反射していた。
僕は、その窓から差し込む眩い光を右手でさえぎながら窓辺に立った。
外は、モノトーンに変わった穂高の田園地帯が広がり、遠く雪化粧の北アルプスが連なる中、勇ましい常念岳が黄金色に光輝いていた。
刻々と変わる山肌の光は、厳かな平常心を育み、新たな息吹を僕の体に吹き込んでくれる。
月島の工房と広尾のマンションを引き払い、すでに半年が過ぎようとしていた。
工房の片隅では、愛車のヤマハSRが春の訪れを待ち焦げれ、そんなSRをみるたびに湘南の海が浮かび、月島で過した環とのひと時が走馬灯のように駆け巡ってはいたが、僕は決して悔いてはいなかった。
むしろ、環が安曇野に帰る決断を下してくれたようで感謝しているほどだった。
こうして安曇野の自然に包まれならが、僕は穂高川の四季をガラス細工に封じ込めることにした。
静まりかえった工房で、灯油ストーブとコーヒー・サイフォンに火をつけ、ゆらゆらと燃えあがる灯油ストーブの火を見ながら、頭の中に浮かぶ色彩をどう形に表すか試行錯誤していると、コーヒーサイフォンがブクブクと激しい音をたて始めた。
するとその時、カラン・カランと、入り口の引き戸に取り付けたカウベルが鳴った。
「はい!」
僕は慌ててサイフォンの火を消し、窓から外を覗いた。
すると入り口の軒下に、鮮やかなオレンジ色のダウン・ジャケットのフードを目深にかぶった人の姿が見えた。
僕はもう一度「はい!」と声を張り上げながらクモリガラスの引き戸を開けた。
その人はつぶさにフードを取り、鼻まで隠していたマフラーをはずすと「あの〜こちらの工房で働きたいんですけど、弟子入りさせて頂けないでしょうか!」
環は真剣な眼差しでイッキにまくし立てた。
その時僕の背中に、環の立てた爪の痛みが走った。

          FIN
                             上岡ヒデアキ

 
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由比ヶ浜からの風 <第五章> 夜風が秋はこぶ隅田川

        
                    


               由比ヶ浜からの風

                <第五章> 

                                         夜風が秋はこぶ隅田川


海が見たくてバイクのヤマハSR400に跨り、三浦半島の佐島マリーナ入り口にある佐島公園にやって来た。
ここはバイクを飛ばして来る僕の憩いの場所だ。
この日も、公園内の海に突き出た岩場の小さな芝生で、数時間海水パンツ姿で大の字になり、大海原からの風と紫外線をいっぱい浴び汗ばん体は、公園の手洗いでタオルを濡らして拭き、周りの視線を気にしながら海水パンツを脱ぎ捨てると、腰のポシェットに入れておいた新しい下着に履き替え帰り支度を整えた。
それでも真夏の昼下がり、またジーンズに足を通すのには嫌悪感が先立ったが、こればかりはバイク乗りの宿命ともいうべきもので仕方がない。
それでも上に着て来たアロハ風のシャツは腰に巻き、Tシャツだけになった。
公園内の砂浜には、小さな子供を二人連れた家族が一組増えていた。
赤いリボンと青いリボンの付いた大きな麦わら帽子をかぶった二人の子供の戯れる姿が、僕の遠い記憶を揺さぶり、逆光の中に長野の穂高川のせせらぎや、川面をつつく糸トンボの姿が浮かび上がり、哀愁をかきたてられた。
それにしても、最近たびたび安曇野の景色が脳裏をかすめる。
僕の作品に対する創造性や創作力を絶やさないためにも、都会を離れるいい機会なのかも知れないと・・・そんなことを考えながら佐島公園を後にし、木陰で佇む愛車のSRに息を吹き込んだ。
ズドドドッド゙ッ!僕は「オシ!」と気合を入れて跨ると、佐島公園を後にし海岸線の134号線への坂を一気に上がった。
しかしこの時はまだ、環が来ているだろう鎌倉の由比ヶ浜へは行くまいと思っていた。
134号線に出て左に曲がるとすぐに来たときの立石の信号だ。
そのまま帰るなら右にハンドルを切り、海岸線を後にすればいいのだが、僕のハンドルを握った手は動かなかった。
そのまま左手に広がる相模湾を垣間見ながら、ゆっくりと海岸沿いを北上した。
どうせ由比ヶ浜に行ったとしても、あの広い砂浜の雑踏の中で環を見つけることなど所詮ありえないし、もう少し海岸線をドライブしたかっただけだと自分に言い聞かせながら、長者ヶ崎を通り海岸線からは少し離れ葉山から逗子へと走った。
車は次第に増え、道路は大渋滞になったが、そこはバイクの特権、狭い路肩をすり抜け逗子を抜けると由比ヶ浜からの風を感じはじめた。
しかし、たとえあの広い海岸の雑踏の中で環を見つけたとしても、彼氏と一緒の姿を垣間見ていったいなんの意味があるのか、彼の顔見たいわけでもなく、ましてや彼に対して勝ち誇りたいわけでもないのに。
そんなモヤモヤと心が揺らいでいても、バイクを止めることなく鎌倉の海岸に出た。
材木座から由比ヶ浜まで長く広い鎌倉の砂浜は、海の家の旗やパラソルが海風にたなびく中、群集で埋め尽くされていた。
そして遠く水平線には、太陽をいっぱいに浴びた多くの白い帆が疾走し、真夏のパノラマを演出していた。
僕はバイクのギヤをローにし、右手でアクセルをコントロールしながら時折砂浜に眼を向けゆっくりと走り続けた。
材木座海岸を抜け、由比ヶ浜海岸に入ると視神経は過敏に研ぎ澄まされ、万が一の期待に胸の鼓動が高鳴りだしていた。
そして由比ヶ浜を半分ほど通り過ぎた時だった。
若者がが密集している砂浜の中央で、男達に囲まれた環らしき体形をした水着姿の女性が視界に入った。
僕は息を呑みブレーキ踏んだ。
そして、後姿になっていたその女性にくぎずけになったが、中々振り向いてはくれず、僕は10メートルほど先の広くなった歩道にバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ砂浜を振り返った。
その時その女性が振り向いた。
なんと環に間違いなかった。
こんな広い海岸の雑踏の中で、それも走行中のバイクから環を発見できるなど、これは神のなせる業だと環との運命を感じるほどだった。
僕は胸の高鳴りを抑えながら、ゆっくり歩道と砂浜の境界へ歩み寄ったが、環は20メートルほど先で行き交う人の波に見え隠れしていた。
水着姿の環は、まるでビーナスの彫像ように光輝き、僕の視界の中では、次第に周りの景色がおぼろげになり、環の姿だけが鮮明に浮き上がっていた。
そして、環に対する愛おしさがふつふつと沸きあがり「僕の方を振り向け!振り向け!」と叫びながら暫く佇んだが、その願いは届かずその場を離れようとしたその時だった、僕の願いを感じたように環が僕の方を振り向いた。
僕の視線に気がついた環は、一瞬豆鉄砲を食らった鳩のようにキョトンとしていたが、すぐに我に返り大きく右手を振りながら僕の方に駆け寄って来た。
「速水さん!来たんだ!」
少し日に焼けた環の笑顔が嬉しかった。
「ああ・・・」
僕は照れ笑いを浮かべた。
「よく分かったね!ほんと・・嬉しい」
環は顔をくしゃくしゃにして、僕に抱きつかんばかりに喜んだ。
しかしその時、後ろから近づいた男が、いきなり環の首を後ろから羽交い絞めするかのように抱きついた。
「やだ〜なにするの!」
環は眉間に皺を寄せ男の腕を振りほどこうとしたが、男はにやけた顔で環を離さず「どうも!バイクっすか?」と、僕が持っていたヘルメットを見ながら話しかけてきた。
「そう、偶然環ちゃんを見かけてね・・・」
「コウちゃん、は・な・し・て!」
環は男の腕を解き、彼を突き放した。
「もう〜コウちゃん、こちらは、ほら!お世話になっている貴恵さんのお友達で速水さん。速水さん久木田君です・・」と同棲相手と思われる男を僕に紹介したが、笑顔がどこかぎこちなかった。
環は佐々木氏の妻貴恵に久木田を紹介したことがあるようだ。
「どうも久木田っす」
久木田は少し茶髪だが、日焼けした端正な顔立ちで、優しく親しみを感じる笑顔を振りまいていた。
「あ〜どうも、じゃ〜僕は・・・」
僕はその場にいたたまれず、ヘルメットをバイクの方へ掲げながら逃げるようにその場を後にした。
「速水さん!きおつけてね!」
後ろから聞こえた環の声に、軽く手を振りながら振り向いたが、その時の久木田の視線が痛かった。
僕は二度と振り返らずバイクに跨ると、本来なら二人がいる逗子方面にUターンしたいところだったが、二人の視界から早く消えたく七里ガ浜に向けて走らせた。
稲村ケ崎を抜け、サファーでごった返す七里ガ浜海岸を走りながら、久木田がもっと外見から嫌な男だったら良かったのになどと、久木田に会ってしまったことを悔やんだ。

それから二日ほどたった夜、環から電話があった。
「・・・たまき」
消え入りそうな声で、環は泣いていた。
「どうしたの?」
「・・これから行ってもいい?」
「ああ、もちろん」
環の涙の原因は、僕が由比ヶ浜に行ったことで、久木田が僕と環がただならぬ関係になっていること察したのだろうかと、やはり由比ヶ浜に行ったのは間違いだったと、改めて悔いた。
それから一時間ほどで、環はサングラスをかけ大きなバックを手に現れた。
「今日泊まってもいい?」
僕は一瞬顔に怪我でもしているのかと心配したが、どうやら泣いて腫らした眼を隠してるだけのようだった。
「喧嘩になったんだ?・・僕のせいだね」
環は小さくうなずいた。
「・・・でもいずれいうつもりだったし速水さんのせいじゃないから・・・」
「ごめん・・・」
「謝らないで!海に来てくれたのは凄く嬉しかったんだから」
「彼、なんていってた?」
「・・・あんなおやじのどこがいいんだって」
と、環は少し笑顔になった。
「おやじか〜まあそうか・・」
「え!速水さんそんなことないよ」
環は僕の腕を掴みながら、慌ててフォローしてくれたが、確かにまだ30代とはいえ、彼らからすれば間違いなくおやじだと納得はしていた。
「なんだ、顔が笑ってるぞ!やっぱりおやじだと思ってたんだろう!」
「違うって!」
環は僕に抱きつきキスをしてきた。
そして何度も激しく僕の唇を奪い、環の弾力のある体に僕の下半身は敏感に反応し始めた。
「このまま上に住めばいい・・・」
僕は環の耳たぶを噛みながらつぶやいた。
「あ・う・・うん・・・」
環のかすれた声が漏れた。

その夜、物干し台から夜空を仰ぎ見ながら、環から久木田と別れる本当の理由を聞かされた。
久木田浩二は環のひとつ年下で、実家は塗装業を営んでいるが、一人息子なのに継ぐ気がないらしく、その上大学を出ても定職にはつかずにいるらしく、食費や家賃も環に頼っていたらしい。そんな甘えの強い久木田に、環は絶えられなくなってきたとのことだった。
優しい環は、自ら身を引くことで、久木田に成長して欲しいと考えたのだろう。
その日から、環は工房の二階に住みだした。
そして工房に住むことで新宿の夜のバイトはやめ、工房には少しずつ環の荷物が増えはじめたが、そんな光景が工房へ行く僕の楽しみにもなってきていた。
環は時折広尾のマンションにも来たが、広尾は女の匂いがするといって、あまり来たがらなかった。
確かに広尾のマンションには、僕の別れて間もない女の残り香がするのかも知れない。
それよりも、環は月島が気にいっているようで、時間があれば墨田川沿いを散歩し、二人で西仲商店街の店を探索した。
二人の時間は、新しい歩みとして刻まれ始めてはいたが、それでも時折環が物干し台に座りながら、暫く携帯を見詰めていることが気になっていた。
夏の酷暑も残暑に変わり、物干し台には短い命を全うした昆虫達の死骸が目立ち始め、秋の気配を告げていた。


           この続きは最終章へ・・・


 
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