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海の如く、強く優しい愛しき人達へ  ≪13≫ 花束

         


             

 

                          海の如く、強く優しい愛しき人達へ ≪13≫

                花束 (改訂版) 
                     
                 第一章

                五月の風に・・・


人生は不可解ではあるが、それでも人は必然的なものに導かれているようだ。
しかし、時折偶然という魔物に翻弄されるからおもしろい。

あれは友人達との飲み会で、六本木に向かう時だった。
僕は仕事の打ち合わせが長引き、待ち合わせの21時には到底間に合わなかった。
幾度も携帯が鳴り響き、一度は遅れる旨をレスしたのだが、そんなことでへこたれる連中ではなく、ヤンヤの催促メールが送られて来ていた。
そんなメールを無視しながらも、やっとのことで会社を後にしたのは、時計の針が深夜12時を回った時だった。
僕は数人のスタッフを残し、一人18階のエレベーターに乗り込んだ。
深夜のエレベーターは不気味な静けさに包まれ、怖がりの僕には数秒でさえもとても長く感じてしまい、このまま取り残されたらどうしようなどと、悲観的なことが頭を過る。
静かに下降するエレベーターの数字を見ながら、早く,砲覆譴箸隆蠅い箸藁∧△豊Г点滅した。
そしてドアが開いたが誰も乗り込む気配は無く、僕は慌ててボタンを押したが、ドアが閉まる寸前に誰かの手がドアを遮るのではないかと少し心臓が高鳴ったが、何事も無くドアが閉まると、ため息が出るほど安堵感に包まれた。
それから数字が点滅することはなく無事ロビーに降り立ったが、すでに人影はなく、警備員らしき人の渇いた靴音だけが、時を刻むように木霊しているだけだった。
しかし、ビルのエントランス・ドアが開くと、外は静寂のロビーとは裏腹に強風が音をたてて吹きまくっていた。
僕は体が飛ばされないように、しっかりと下半身に意識を集中させ、一歩一歩踏みしめるように歩き出したが、今夜が雨でないことにも感謝していた。
それというのも、会社がこの青山一丁目の24階もある高層ビルに移転してから、ビル風のお陰で傘を幾つも犠牲にしてきたからだ。
僕は風に逆らうように体を前かがみに倒しながら広い歩道を横切り、空車の表示ライトを見つけ手を上げた。
すると突然風は激しさを消し、嘘のように静まりかえった。
そして頬をかすめる風は、穏やかで清清しい五月の風に変わったのだ。
僕は蝉の脱皮の如く、背筋を伸ばしながら夜空を見上げ、ふ〜っと息を吐いた。
都心の夜空の数えるほどの星は、今にも消え入りそうに点滅していたが、大熊座の北斗七星だけは、北の空に燦然と輝いていた。
明るい都会の夜空でも、常に北斗七星だけは輝きを失わず、僕らを導き安らぎを与えてくれるものだ。
既にタクシーは目の前に止まりドアを開けていたが、僕は北斗七星に大熊のシルエットをなぞると、そのまま運転手に手を掲げ「すいません!」といいながら軽く頭を下げた。
運転手の舌打ちが聞こえた気がしたが、僕は五月の風に背中を押されるように六本木へ歩きだした。
その時、またポケットの携帯がバイブした。
「まだか〜!」
にぎやかな声が耳に劈き、彼らの笑顔が浮かんだ。
僕の軽やかな足取りは、そのまま人気のない外苑東通りを進むと、正面には薄っぺらなブリキ細工のような六本木ヒルズが、我が物顔で夜空に聳え立ち、通りの右手には、桂由実のブライダル・サロンが、まるでバタークリームのケーキのようにライト・アップされ、燦然と浮き上がっていた。
ウインド・ディスプレーには、ウエディング・ドレスを着たマネキンが誇らしげな笑みを浮かべながらポーズをとっていたが、隣のタキシード姿の男マネキンに目をやり、こんな日が自分にも訪れるのだろうかと、思いは馳せてはみたが、新たな家族を持つことへの不安と自身の無さが、まったく結婚には積極的ではない自分にも気ずかされた。
そんなことが頭を過りながらも、足取りの軽さからか、常に頭にスカーフを巻き、福笑いのような笑みを浮かべる桂由実の顔が浮かび、僕は薄笑いが込み上げて来た。
遡行している内に、左手に乃木神社へ降りる茂みが広がる橋を渡ると、道路は緩やかに左に曲がった。
目指す六本木の光は既に視界に入り、六本木ミッド・タウンの灯りも見え始めた。
ミッド・タウンは六本木ヒルズの薄っぺらさとは異なり、重厚で威厳さえを感じさせていたが、エントランス前の広場は、既に人影もまばらだった。
そしてミッド・タウンの裏手に回る道に目をやりながら、去年のクリスマス・イルミネーションを思い浮かべ、ふと視線を前に戻した時だった。
華奢な体が隠れるほどの、大きな花束を抱えながら歩いている君が見えた。
そして、小さな歩幅の君に追いつくのには、さほど時間は掛からなかった。
僕はヒタヒタとストーカーのように近ずき一気に追い抜くと、振り向きざまに声を掛けた。
「重そうですね」
「・・いえ、大丈夫です」
君は一瞬怪訝そうな顔で僕をみたが、すぐに笑を取り戻し前を見た。
街路灯に映し出された君の透き通るような白い肌は、まるで繊細なガラス細工のようだった。
「どこまで?」
「え?」
君は首をかしげながら僕の顔を見た。
「どこまで歩くんですか?」
僕はもう一度聞き直した。
「あ〜飯倉までです」
君は笑顔のままだった。
「そう、それじゃ〜方向一緒だ。それ、持ちますよ!」
この時、僕は自分の言動が信じられなかった。
ナンパなどしたことがない僕が、深夜路上で君に話し掛けていたからだ。
これも清清しい五月の風のせいだったのかも知れない。
「いえ、大丈夫です」
君は少し警戒したのか、反射的に花束を反対に持ち替えた。
「いや、ほら!あれ、変なあれじゃないから、ほんとに・・」
このとき僕は自分の行動に少しうろたえたのか、しどろもどろになっていた。
「・・・はい、じゃ〜」
そんな僕の動揺に気づいたかのように君は立ち止まり、花束を僕に差し出した。
「あ!はい・・ほんと大きい花束ですね・・誰かの誕生日とか?」
僕の腕の中に移った花束からは、白い大きな百合の香りが漂った。
「あ〜重かった」
君は両手をブラブラさせながら答えた。
「誕生日・・そうなんです誕生日です」
何かを思い出したように答えた君。
「こんな時間から?」
「ええ、私は今まで仕事してたから・・もう盛り上がってると思う」
「仕事か〜大変だね」
「はい」
僕は(そうなんだ〜僕も今まで仕事で・・)と言おうとしたが、頭の中はキャバクラで働く君の姿が浮かんでいた。深夜に仕事が終わったということだけで、勝手に決め付けていたのだ。
冷静に考えれば、君はキャパクラ帰りの派手な格好などではなかったのだったが。
「お店なんていうの?」
僕は君の顔を覗き込んだ。
「・・・教えたら、今度きてくれます?」
君はいたずらっぽく、上目ずかいで答えた。
「いくいく!行きますよ〜」
僕は能天気な反応をしたが、君は薄ら笑いを浮かべながら少し間を置き
ち・が・い・ま・す・よ・・お店といっても美容室です」
「えっ!あ〜ぁ!そうなんだ・・美容室か〜すいません」
僕は「いくいく!行きますよ〜」などと、ふしだらな想像をしたことに、顔が熱くなるほど恥ずかしかった。
「いえ、いいんです、べつに・・」
君は語尾が消え入りそうな声になり、顔から笑顔が消えた。
僕は君が気分を害したのだろうと思い、気の利いた言葉を捜したが、僕はそんなボキャブラリーを持ち合わせていなかった。
そしてそのまま会話は途切れ、並んで歩く二人の間には気まずい雰囲気が漂った。
僕は必死に話題を捜したが、すでに飯倉の交差点が視界に入っていた。
「ありがとうございます。もうそこなので」
「あっはい」
君は深ぶかとおじぎをし、僕から花束を受け取ると車の途絶えた車道を横切り交差点手前の路地に消えた。
僕は君が路地に消えた時、名前を聞かなかったことに気がついた。
少なくとも、美容室の場所ぐらい聞いておけばよかったと悔やんだ。
こうして結末は情けないものなってしまったが、短いひと時でも、君に出会えたことに、歩いて来たことが正解だったと心は晴れやかだった。
僕は苦笑いを浮かべながら、目的の信号を二つも通り過ぎたのを戻り、ロアビルとマックの間を左に曲がった。
するとそこには、1971年にロンドンで誕生したという、ハード・ロック・カフェのギター・ネオンが燦然と輝いていた。
この六本木店は、東京デズニーランドができた1983年、女の子が大手を振って酒を飲めることになった、カフェ・バー全盛とともに誕生したらしい。
僕らがまだ、ガチャピン・ムックと遊んでいる頃だ。
店内はアメリカ南部のダイナーのようで、ジャンク・フード好きの僕には心が躍るつくりだった。
そんなハード・ロック・カフェの外壁の、未だよじ登り切れずにぶら下がるキングコングを横目に右に曲がると、目指すバーの看板が見えた。
今夜の飲み友達は、仕事関連で知り合った仲間だが、同世代ということもあり時折集まるのだった。
漫画雑誌編集者のソーリこと吉田繁。ソーリとは、字は違うが元総理大臣と同姓同名だからだ。
それからベーシストのカメチャンこと河村陽一。酔っ払うと海亀の産卵のまねをする。
もう一人は映像作家のコミチャンこと小宮山満。
そして僕は笠井健悟32歳。ケンと呼ばれ音楽プロデューサーをしている。
全員夜型だが、どちらかというと肉食系とは程遠く草食系だ。
今夜は朝まで飲むことになると覚悟はしていた。
                

               この続きはまた・・



                                         
             
















 

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